本年度の前半は、自分史作品の講読と自分史に関する理論的文献のレビューに焦点をあて、「自分史」によって世相史を構築する枠組みについて整理しようと試みた。ただ、「自分史」の語りには、本人にとってもっとも重要な出来事を反省的に記述していく場合が多いので、テーマが限定される傾向が見られた。自分史を書いた人々にとって「戦争体験」は強烈な意味を持っていたので、戦争体験以外の自分史をして書いていたものは限りなく少なく、「自分史作品」の分析を通して戦後の世相史を分析することの限界が見受けられた。そこで、有名人の「自伝」または、経済人の「回想録」をレビューすることで、世相史の全体像を描写できるのではないかと考え、後半は、そのレビューを行ったが、さまざまな分野の人々の多様な視点を整理するのは簡単な作業でないと認識しながら、それらの作品をレビューしている過程である。 本年度はまた「自分史サークル」への参加と聞き取り調査を計画していたが、「庶民の世相史」の何に焦点を合わせるかについての絞りこみがまだ不十分であるので、インタビューを試みたものの、世相史を描写するほどまとまったテーマ設定が定まらず、予備的なインタビュー段階にとどまっている。その予備的調査では、インタビュー対象者を「自分史サークル」参加者に限定することにも限界があるという印象が残った。 そこで、本研究以前から継続している教育現象の時代的な変化に焦点を当てる方法で、戦後の世相史の一側面を描写する試みを行った。そこで見られた知見としては、教育現象と経済現象、政治現象がダイナミックな形で絡み合っているということであった。この教育現象からみた世相史の予備的作業の知見から、今後、より広い枠組みで戦後の世相史を多様な人々の「語り」あるいは自分史から考察することが来年度の課題である。
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