本報告書は、「戦争体験」を語り継ぐことを戦後の世相史の重要な側面であるという認識に立ち、ライフストーリー・インタビューで聞かれた「語り」と自分史作品という庶民の「語り」を分析し、「戦争体験」を語り継ぐごとの社会学的意味を考察している。本研究で研究対象としている「戦争体験」は、兵士として戦場に行った「戦闘体験」ではなく、子どもの頃に体験した空襲などを含む「銃後」の「戦争体験」である。 まず、ライフストーリー・インタビューの方法論的議論を行い、「語りのちから」の持つ特徴を認識した上で、79歳の女性にライフストーリー・インタビューをした。子ども頃の「戦争体験」についての彼女の「語り」は書かれた証言とは異なり、語り手である彼女の「想い」が伝わるもので、多感な10歳代の目でみた当時の「戦争体験」がリアリティを持って描写できるものであった。次に、10歳代の「戦争体験」について書かれ、ベストセラーになった自分史作品を分析し、それぞれの自分史が書かれるようになった社会的要因と著者たちの「想い」の分析を行った。 このような分析に基づき、「戦争体験」の語り継ぎの今後の可能性について最後に考察している。まず、児童書として出版されている「戦争体験」の自分史作品は、その対象が子どもであることで、今後も語り継ぎの方法として効果的であると思われる。次に、「語り」の持つオーラリティの特徴は語り継ぎには効果的であるので、映像として「語り」を保存する方法も効果的であろう。そして、「東京大空襲」資料センターのような民間施設を公式に認め、記念館として、「戦争体験」を伝えることも必要ではないかと論じた。
|