二十世紀に入ると全国各地に公立結核療養所が誕生した。しかし、療養所の建設計画が明らかになると各地で反対運動が起こった。これらの反対運動は必ずしも結核を忌み嫌うだけではなく、地域や反対運動にかかわった人々によって微妙に違っていた。 そこで全国18ケ所の公立結核療養所の設立経緯を調査し反対運動の有無について調べた。その結果、ほとんどの療養所で規模や内容に違いはあるが反対運動が存在していることが判明した。さらに反対運動の中身を調べていくと、結核に関する社会意識はこれだと、一律に束ねることが困難なほど、反対運動にかかわる人々のあいだには様々な気持ちや考えがあることがわかった。 その上で、結核に対する社会意識には大きく次のような特徴が見られた。まず第一に都市と地方の違いである。政府は公立の結核療養所は五万人以上の都市に建設したが、やはり大都市か否かによって若干の違いがあった。東京や大阪の例を挙げるまでもなく都市が大きければほど反対運動は組織的に行われる傾向が強かった。第二は反対運動には結核を忌避する人々の意識が根底にはあるが、より具体的には結核療養所をめぐる風聞によって地元の産業や観光に悪影響を与えることを心配して反対する場合も多くあった。第三に、結核療養所の設置主体である各自治体の多くが、極秘のうちに療養所候補地の選定作業を行っていたことである。設置者にとって反対運動は自明のごとであった。このように療養所建設に対する風当たりが強いなかで、稀ではあるが療養所が地域の活性化に繋がることを期待して最初から誘致に積極的なところもあった。 以上のような内容を『科学研究費報告書』としてまとめた。
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