本研究は、特に福祉オンブズマン制度を導入している自治体を対象として、当該システムの機能及び運営状況を把握し、福祉サービス利用者の権利擁護システムとして機能するための運用要件や制度改善への課題を明らかにすることを目的とした。 1990年、「福祉サービス苦情調整委員」の設置(東京都・中野区)が、自治体における、いわゆる福祉オンブズマン制度の先駆けとなった。その後の自治体ごとに福祉オンブズマン制度の導入時期をみていくと、社会福祉法の制定及び介護保険制度の導入後に増加していることが明らかとなった。しかし、その運用根拠は、条例のほか要綱の場合もあり、またその名称において、必ずしも「オンブズマン」を用いているとは限らない。そのことは、自治体によって、当該制度の運用や、いわゆる「オンブズマン」の活動範囲の違いとなって表れた。また、当該制度の周知状況や活動実績(相談対応や申し立て件数等の少なさ)においては、多くの自治体で課題として認識されていることが明確となった。 本研究では、2カ年にわたり、福祉領域に分野を限定したオンブズマン制度を導入している自治体と自治体行政全体の課題を取り扱う、総合(行政一般)オンブズマン制度を導入している自治体を対象にアンケート調査とヒアリング調査を実施した。しかし、当該制度を導入している自治体で本研究の調査対象となった自治体数は、両者で約50自治体にとどまっている。この数字からも、福祉オンブズマン制度が、サービス利用者の立場からは利用者支援システムとして誰もが活用でき、かつ普遍化された制度として定着しているわけではないことが明らかである。 しかし、ヒアリングによるオンブズマン及び事務局担当者からの見解や、2カ年の研究期間に2回開催した導入自治体による連絡会(東京都内の導入自治体)において、交換・共有した情報や意見の内容を踏まえるならば、現状と課題をふまえた上での活動のさらなる可能性も示唆された。特に、運用方法が異なることを踏まえながらも、活動内容と対応プロセス等の共有化は、各自治体の活動の活性化につながり、かつ当該システムの未導入自治体へのモデル提示にもなるであろうことが予測された。
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