2009年5月までに導入予定である裁判員制度を念頭におき、人々が刑罰を判断する際に、犯罪行為や逸脱行動の内容そのもの以外に、刑罰の軽重を左右する行為者(被告)と被害者の属性を特定して、その影響を検討し、一般の人の刑罰判断過程を解明することを目的とする。また得られた知見に基づき、専門家ではない一般の人が刑罰判断をする際にどのような点に留意すべきかを考察する。まず逸脱行動の行為者側の属性要因として行為者の社会的地位を取り上げ、個人レベルでの刑罰判断について検討した。これまでの研究によって、意図的ではない逸脱行動の場合には行為者の社会的地位が高いときの方が低いときよりも課される刑期が短くなる傾向が示され、一方、明らかに意図的な場合には社会的地位の効果はみられないことが示されたが、そこで使用された刑期の測度が適当でなく、天井効果によって結果が生じた可能性を排除できなかった。そこで、刑期の測度を修正して、再度、質問紙実験を行った。主人公が逸脱行動をとってしまう架空の物語を刺激文として被験者に呈示し行為者に対する刑期の判断を求めた。実験要因は、行為者の社会的地位(高・低)×逸脱の程度(深刻・軽微)×逸脱の意図(強・弱)の3要因であり、社会的地位は行為者の職業名によって操作し、逸脱の程度は物語の内容(殺人か暴行か)によって操作し、逸脱の意図は、意図に関する記述の有無によって操作した。主要な従属変数である刑期の判断には、選択肢を設けず被験者が適当と思った年数を自由に記入する形式を用いた。その結果、意図的でない逸脱行動の場合に同様の社会的地位の効果がみられ、意図的でない場合にはその効果はみられなかった。このことから、特に衝動的な犯罪や故意ではない犯罪の場合には、行為者の社会的地位によって人々の刑罰判断が影響を受けやすいことが示唆されたといえる。また、本研究の元となった研究を所属機関の紀要で報告した。
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