2009年5月までに導入予定である裁判員制度を念頭におき、犯罪や逸脱行動に対する刑罰判断に影響を与える行為者(被告)と被害者の属性の中から、行為者の社会的地位に焦点を絞り、その効果を検討した。研究1では、意図的でない逸脱行動の場合には、高地位者の方が低地位者よりも科される刑期が短くなるが、明らかに意図的な逸脱行動の場合には、社会的地位の減刑効果は消失することが示された。研究1を含め社会的地位の効果を検討した過去の研究では、地位の異なる2つの職業を比較することが多かったが、職業間には様々な質的差異が存在するため2職業の比較だけでは不十分だと考えられた。そこで、研究2、3では、社会的地位の異なる複数の職業を設定し、その効果を検討した。大学生を被験者とした研究2では、行為者として、医師、パイロット、教師、書店の店主、道路工夫の5種類を設定し、逸脱行動に対する刑期の長さを比較した。その結果、パイロットの方が道路工夫よりも課される刑期が有意に長く、高地位者の方が低地位者よりも厳しい罰を受けるという結果になった。研究3では、裁判員制度により近づけるため、無作為抽出した一般社会人341名を対象に、2つの逸脱事例について刑期の判断を求めた。行為者には、医師、パイロット、書店の店主、道路工事作業員の4職業を設定した。その結果、刑期に対する社会的地位の効果はみられなかった。しかし行為者に対する非難感情は、パイロットよりも道路工事作業員に対してより強かった。これらの結果から、法的知識をもたない一般の人が裁判員となって刑期の判断をする場合、単に行為者の職業を情報として呈示されただけでは、その影響を受けにくいこと、行為者に対して非難感情を強く覚えたとしても、その感情が刑期の判断に直接反映されるわけではないことが示唆された。社会的地位の効果が調査によって一貫しなかった点が今後の課題として残された。
|