研究概要 |
本研究は、制御焦点理論をさらに発展させることを志し、統制する認知過程と感情過程の相互作用に着目し、そのメカニズムを解明することを目標とした.およそすべての生体は、接近・回避によって自己制御し、適応を実現する.自己制御は、単に意思の力である方向に向けて行動を起こすまたは抑制するだけではなく、一連の段階からなる複合的なシステムである.本研究では、目標の設定の仕方すなわち目標フレーミング(損失回避を目標とするかvs.利得接近を目標とするか)によって、まず感情体験が異なり、前者は安心-焦燥感情を、後者は歓喜-安堵をそれぞれ生起させることを実験的手法により見いだした.また、より日常的な社会的相互作用状況において、一般的対人的態度という人格要因が対人関係における目標フレーミング、すなわち他者への接近・回避の枠組みとして機能し対人的状況におけるある等質の刺激であるところの相互作用相手が発したことば(からかい)に対して、枠組みに対応した異なる意味を抽出し、その結果異なる感情が生起することをも明らかにした.つまり、対人関係を回避する態度の持ち主は、そのことばに自分に対する負の感情の存在を感知し、否定的感情を経験する.これは、非社会的な状況での研究結果と方向が同じで、自己制御における人格要因の関与を明らかにしたものと解釈できる.したがって、異なる目標フレーミングが異なる動機づけシステムを起動させ,その動機づけが異なる感情・認知・行動を導くことを妥当性・普遍性のあるものとして明らかにし、感情を介した適応システムのメカニズムの基盤の一端を解明できた.
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