研究概要 |
本研究では,小中学校等の算数・数学授業を,(1)概念的理解,(2)思考プロセス,(3)社会的相互作用を重視した長期的プログラムとして組織することにより,児童・生徒の学習観や数学的思考がどのように変化するかについて,解明することを目的とする。本年度は次の2つの研究を実施した。 1. 中高一貫校の数学授業を通じた生徒の学習観の縦断的変化 中高一貫校における数学授業を,本研究の開始年度(17年度)から分析対象としている学年を対象に,先に示した3点(特に思考プロセスの多様な表現と交流)に重点を置いて継続的に組織し,生徒の学習観や学習方略などを測る質問紙調査を先述の継続的授業の間に約1年間の期間をおいて実施した。分析の結果,前年度に見いだされた「理解・思考」型学習観ならびに「暗記・適用」型学習観が時系列的に変化することが明らかになった。授業時における生徒の継続的発話分析の結果とあわせて考えると,主担当教員の交替による指導法の変化,生徒との関係構築にもとづく指導法の修正(教師の熟達化),受験に対応させた指導内容の変化などが生徒の学習観に影響を及ぼすことが示唆される。 2. 多様な解法の関連づけを重視した算数授業による小学生の数学的思考の微視的変化 小学校5年生2クラスの児童を対象に,先述の3点を重視して実施した授業(少人数指導による複数のタイプの授業)における発話とワークシートの記述内容を分析した。各解法の手続きを児童が説明するだけではなく,「どうしてそのような解法になるのか」といった発問などによって,立式や解法の手続きの根拠の説明を児童に求めることを通じて,児童の発言が概念的理解の側面に焦点化されること,非発言者を含む児童のワークシートの記述が解法の目的を含むものになる傾向があることが示唆された。
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