研究概要 |
1.本研究の目的 本年度は特に,未来の出来事を想像して対処する思考能力に焦点を当てて,次の実験的研究を行い,未来に関する思考能力の発達について検討した。 2.未来に関する思考能力の発達:実験的研究の概要 年長児25名(平均76か月)と年中児30名(平均64か月)を対象に,a)夏の川にカニを捕りに行く,b)山奥の畑に芋掘りに行くのに,それぞれ,必ず絶対もっていくものと持っていった方がいいかもしれないものを,必要度の高いもの,やや高いもの,ディストラクタのアイテム群から選択させた。あわせて,選択肢以外で必要なものがあるかどうかも質問した。なお,昨年度の研究結果を踏まえ,先行情報の影響をみるために,必要アイテムを持っていないために困った人の物語を聞いてもらったグループと聞かないグループとに分けた。その結果,次のような知見が得られた。 (1)アイテムの選択傾向は年長児と年中児でほぼ同じであり,昨年度の研究結果とあわせると,未来の出来事を想像して対処する思考能力は4歳頃から発達するといえる。 (2)先行情報の有無は,アイテム選択傾向には影響を及ぼさなかったが,年中児は選択肢以外で必要なものを答える際,先行情報に限られた回答をする傾向が認められた。 (3)年長児は,自分からいろいろな可能性を想定して回答していた。 3.幼児期における時間的拡張自己の発達に関する考察 本研究の知見を総合すると以下のようなことが示唆された。 (1)過去ないしは未来に視点を動かして,過去を想起することと未来を想像することは,発達的にほぼ同時期に出現し,ともに4歳過ぎには可能になる。 (2)4歳代における未来に関する思考は,おとなから提示された枠内に留まるが,5歳後半以降になると,過去の出来事をふり返りつつ,さらにさまざま条件や状況を自ら仮定してみて思考する傾向がある。
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