研究概要 |
本研究は,幼児が過去や未来に視点を動かしてメンタル・タイムトラベルを行い,時間的拡張自己を構成するプロセスを検討し,その発達が幼児の生活世界にどのような変化をもたらすのかを検討することを目的としている。関連する研究をレビューし,2つの実験的研究と1つのインタビュー研究を行い,次のことが明らかになった。 1.未来の自己や外界の状況を予想して,行動を計画する能力の発達を「トリップ課題」によって調べた(研究1)。これは,夏の海や冬の山に持って行くものを選択するものであり,3歳児は現時点での好みや提示された場面から蓮想されるものを選ぶ傾向があったが,4歳児は未来において必要となる事態を考慮した選択が可能になった。この時期は,過去の出来事を自伝的に想起することが可能になる時期と対応しており,過去を想起することと未来を想像することには共通した認知的基盤が想定される。 2.「トリップ課題」において,各選択アイテムが必要となる可能性を考慮して,優先順も含めた判断を求めた(研究2)。その結果,こうした出来事の生起可能性を含めた判断能力は,「円系列化課題」によって測定された系列化操作能力と関連していることが示唆された。 3.お泊まり保育などの行事への不安についてインタビューしたところ(研究3),トリップ課題で未来の不確実な出来事を想定できている幼児は不安について言及する傾向が認められた。このことは,自らの視点を未来において出来事を想定する能力の発達が,自己に関わる情動とも関連していることを示唆するものである。
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