研究概要 |
本研究の目的は,直面する問題構造の特性に合わせ,既有の知識やルール構造を変換・調整して適用するという,知識-問題領域間のマッピングスキルの熟達化を促す効果的な教授方略を提案することにある。 本年度は,まず,一通りの義務教育,高校教育における学習を修めた大学生が,どのような知識を有しているかについて実態調査を行った。中学・高校レベルの数学,物理,生物,歴史,経済領域に関する基礎的な問題によって知識水準を評定した結果,いずれの領域においても,誤った知識(誤概念)を有するものが多数存在することがわかった。また,高校時の選択科目や,現在の所属学部(文系・理系)の違いに関わらず,誤概念が共通して観察される問題領域もあった。これらの誤概念の形成にいかなる要因が関わるのかについても調査を行ったが,学校教育における学習よりも,日常の具体的な生活体験や身体的感覚に基づいて信念が形成され,正しい知識の獲得や応用が妨げられていることが明らかになった。 次に,上記の調査結果を踏まえ,自然科学(気圧の力学的性質)と社会科学(江戸時代の社会制度)領域において,強固な誤概念を有している大学生を対象として,複数の具体事例を利用した教授法の効果を検証する実験を行った。その結果,まず,提示する事例数が増加することで,誤概念が修正される可能性が高まることは確かめられたが,その教授効果が持続しないという問題も同時に浮かび上がった。 また,学習した正概念を応用できる範囲,つまりマッピング可能な問題領域の範囲も,事例数の増加に伴い拡張することが確認された。誤概念を効果的に修正し,獲得した正概念の応用性を高めるためには教授法の更なる改良が必要である。 以上の調査・実験研究に並行し,現職教員との研究会や実際の授業の観察・記録を行い,学力低下,応用力低下の原因について幅広い観点から探索を行った。
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