研究概要 |
問題構造の特性に合わせて,既有の知識やルールの構造を変換・調整して応用的に適用することを知識-問題領域間のマッピングと呼ぶ。本研究では,科学的な知識領域と具体的な物理現象との間のマッピングを促し,既有の概念の転移を促進するには,いかなる教授方略が効果的であるかを検証することを目的としている。 具体的には,計7つの実験を実施し,自然科学概念の一つである「気圧概念」の学習事態において,学習者が,基本的な学習を行った気圧の作用に関するルールの構造に対して,問題状況に合わせた操作を自発的に実行可能であるかという観点から,そのルールの転移可能性を測定した。その結果,複数の具体事例を提示する教材を利用することや,概念構造に対して変換操作を加える事例が含まれていることなどが,既有の概念の転移可能性を高めることを明らかにした。さらに,種々の要因と転移可能性の関係を調べ,学習する概念の転移可能性を学習者自身が認識できるような教材を工夫していくことも重要であることが分かった。複数の事例を学習する過程で,学習者は,既有の概念を適用可能な範囲を決定するための基準を,再構成・精緻化していくと予想される。最後に,本研究全体の結果を踏まえ,概念転移が成立する心理過程に関する説明モデルを提案した。 このように概念的知識の転移可能性を高める教授方略を追及していくことで,実用性の高い知識を獲得するためには,どのような教授-学習過程が効果的であるかを明らかにすることができる。子どもたちの「理科離れ」に代表される科学に対する学習意欲の低下も,学校で学ぶ科学的知識と身近な生活体験の領域に転移できないことに原因の一端があると思われる。マッピングスキルの熟達化を促進する教授方略は,科学的知識と現実世界の事例との関連を明確に認識させ,科学に対する価値観を修正し,関心を高めていくための有効な手段となっていくと考えられる。
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