研究概要 |
本研究の目的は、動物園飼育下にあるチンパンジーの子どもの発達と母親の養育態度を対象に調べることで、母子相互作用が子どもの発達に及ぼす働きについて考察することである。従来、チンパンジーの母子関係の研究は、野生の個体を対象にしたものか、実験を目的に飼育された個体を対象にしたものであった。野生を対象にした場合、個体に関するデータの収集や、継続的な観察が困難である。一方実験動物として飼育されている場合、人との関係が多くなり、集団における相互作用に焦点をあてることが難しかった。本研究は個体に関するデータが揃い、またチンパンジー同士の関わりが実験室よりは多い動物園飼育の個体を対象に検討するものである。 平成12年度より多摩動物公園にて観察を開始。定期的に放飼場の母子の様子をビデオに記録。3組の母子を対象に成果を発表してきた。その結果、子どもの探索活動には個体差がみられ、母親の養育態度との関連が伺えた。本年度は新たに出産した母親を中心に月一回の観察を実施するとともに、過去のデータとあわせて分析した。 母子相互作用の研究を行うにあたり、動物園という人工的環境が行動に及ぼす影響を念頭におく必要がある。野生チンパンジーの観察は容易ではないため、野生のニホンザル母子の観察を一回実施した。 今年度は乳児期の探索活動と母親の養育態度との関連を検討した。母親の1)子どもの活動のモニター状況,2)子どもへの応答性,3)母の社会的適応度と3、10、18ヶ月時の子どもの探索活動レベルとの関連を検討した。その結果18ヶ月時に活動レベルの高かった個体の母親は子の状況に適した保護・監督行動が見られ,子どもへの応答性・社会的適応度が高い傾向にあった。一方子どもの活動が活発でない個体の場合,母親が子どもの行動を制限する傾向があり,母親の適応度が低い傾向にあった。これらの成果については、第65回日本動物心理学会で発表した。
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