本年度は、コッホの原著『バウムテスト第三版』の翻訳を終え、翻訳資料をもとに京都で3回、富山で6回の研究会を行った。京都の研究会においては、これまでわが国にほとんど紹介されていなかったコッホの基本姿勢が明らかとなった。すなわち、バウムのイメージを持ち続ける中で開けてくる直感を重視するという描かれた素材への基本姿勢や、優れた描写はそのまま解釈になるという解釈の基本姿勢がそうである。富山の研究会においては、コッホがバウムテストを行っていた目的が集中的に議論され、コッホが判別診断(統合失調症であるかないか、神経症であるかないか、など判別によって診断をある程度明確にしていくような姿勢)を必ずしも目指していなかったという点が明確になった。これらの議論の中で、判別診断と総合診断という二つの診断のあり方が浮上し、コッホが目指していたのは総合診断であり、判別診断は総合診断に組み込まれる形でそれが何らかの意味を持つ時にだけ触れるという位置づけであった。コッホは判別診断を否定しているわけではないが、その危険性も十分に自覚していて、かなり慎重な姿勢をとっていることが明らかとなった。これらの成果は「コッホにとっての心理診断」(学園の臨床研究第5号、印刷中)という論文にまとめられた。 さらに「国際心身会議in富山」(平成18年3月23日〜24日)を開催した。ここで斎藤が事例を発表し、内外の研究者による討論がなされた。ここでは世界樹の伐採というテーマが治療的に大きな意味を持っていたことが明らかとなった。バウムが単なる検査としてではなく、治療としても大きな意味を持つ可能性が示唆された。また同会議において、岸本は「身体疾患患者のバウムと夢」というタイトルで演題発表を行い、非言語的な交流のあり方、無意識的身体心像などについて議論がなされた。
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