17年度・18年度に行った元患者との面接で、入所時期が前思春期の頃である場合を多いこと、そしてそれは乳幼児期に感染しやすく潜伏期間が長いハンセン病の特徴を考えると一般的であること、したがって、元患者にとって隔離による人間関係の喪失や将来の可能性の喪失の体験は多くは思春期に起こっていること、また同時にスティグマの体験やその自覚もこの時期から始まっているということが注目された。少女たちは、多くの場合、自分に起こっていることの意味がわからないまま隔離の体験を受け止め、新たな環境に適応することに懸命になって思春期を過ごしていた。そうした点を踏まえ、これまでに訪問面接してきた元患者の中から9名の元患者女性への再度・再々度の聞き取り調査の内容と療養所内の思春期の生活綴方『春を待つ心』(松山くに)、生活記録集『深い淵から』所収の作品「十九歳」(旗順子)を分析検討した。 その結果の1つとして、療養所は差別から患者を心を守る保護的空間になったとの説に反して、療養所での処遇・生活システム自体が個の確立や心理的自立のプロセスで少女の心にスティグマを刻み込んでいった面が大きい点が注目された。
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