昨年度(17年度)の研究においては、縦断(予測)的研究手法を用いて、コーピング、ポジティブ感情、そして健康の因果関係を検討した。しかし、予測的研究の因果関係の予測力は高いものの、十分とは言えない。そこで、今年度の研究においては、コーピングとポジティブ感情の関係を中心に、介入的研究手法を用いて両者の因果関係をさらに精度高く推測した。 まず今年度の最初の研究では、ストレス事象にポジティブな意味を発見するコーピング(以下、FPMコーピング)を積極的に育成し、ポジティブ感情ならびに健康への影響を検討した。男女大学院生57名を対象に、介入群(29名)と統制群(28名)を構成し、いずれもe-mailを通信手段とした介入を実施した。介入群は、ストレス事象とそのFPMコーピング、統制群はストレス事象のみの報告を毎週2回行い、この報告を連続5週間実施した。また、各変数の測定は質問紙を用いて、介入前後と5週間後のフォローアップに実施した。その結果、介入群は統制群と比べて、有意にFPMコーピングが増え、そこからポジティブ感情が高まったが、健康状態は両群ともに差異はなかった。 さらに続く研究では、ポジティブ感情を高める介入がFPMコーピングを増進させるかどうかという逆の因果関係を検討した。男女大学生ならびに大学院生60名を対象に、介入群と統制群(各30名)を構成した。介入群は、毎日のポジティブ事象の採取、週一回のポジティブ経験についての記述、そして、週一回の贈り物授受を通じてポジティブ感情を増進する介入を連続5週間受けた。他方統制群は、毎日の中性事象の採取、週一回の中性経験についての記述を行った。各変数の測定は最初の研究と同じであった。その結果、介入群は統制群にくらべて、ポジティブ感情が高まり、そこからFPMコーピングも増進した。また、健康状態の一部で介入群の方が良好な状態となった。
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