研究概要 |
「懐かしさ」の体験は、身体の内側から広がる温かさの感覚やリラックスの感覚、ゆったりとしたくつろぎの感覚、トランス状態などのもとでこみ上げてくるものであり、無批判的な態度でその体験に浸っていたくなるような特徴をもっている。このことから、「懐かしさ」の体験を促進するには、リラクセーションや催眠、動作法の快適な心身の体験などが有効であると考えられる。とりわけ、とけあい動作法(今野,2005)は、心身の快適な体験や心身の安定をもたらし、自分自身や他者および外界に対してポジティブな感情体験や認知の変化をもたらすと考えられる。また、自分の内部に潜んでいる様々な体験に対する気づきと再統合、過去体験の中に潜んでいる様々な出来事との間の温かいつながりの再発見、今を生きる新たな生命感の発見などが期待される。このように、懐かしさとは、それぞれの人の中に息づいている正負の情動体験が融合した過去の心的リアリティであり、ポジティブな感情体験によってアクセスや再処理が可能になるものと考えられる。 本研究では、高齢者と大学生を対象に動作法による自分自身や父母に対する過去の回想を行うことによって今の自分を肯定的にとらえ直したり、未来に向かって肯定的なセルフイメージを作り出すことができるようになることを示唆した。このことから、懐かしさの体験にアクセスすることは、過去の出来事や経験に対する肯定的な意味づけを促進し、「いま・ここでの自分」の肯定的な認知や心身の健康の回復につながるものと期待される。これらの研究成果の一部は、2005年度の日本心理臨床学会第24回大会と日本心理学会第69回で発表した。さらに今年度は、日本カウンセリング心理学会と日本健康心理学会で発表予定である。
|