全頭型脳磁計を用いて体性感覚皮質由来の誘発磁場を計測し、体性感覚における能動的注意の生成の時間過程とその参照系を検討した。被験者の眼前に手がかり刺激として矢印を呈示し、指示される側の示指にできるだけ早く注意をむけるように指示した。手がかり刺激呈示後200、300、400及び500ms時に電流刺激を示指に与え、誘発磁場から推定される皮質活動強度を刺激先行時間に対してプロットした。注意による1次皮質活動の増強はなかったが、矢印呈示400ms後の刺激により誘発される2次皮質活動は増強される傾向がみられた。このことより、生成された能動的注意が感覚皮質に作用するのは、手がかり刺激後、約400msの時点であると考えられる。また、ある被験者から得られた結果は、手を交叉した場合に注意が皮質活動に影響を及ぼすにはより長い時間(約100ms)が必要であった。注意が指そのものに向けられるならば、注意生成の時間過程は手の位置に依存しないはずであるが、腕を交叉した場合に、注意生成(皮質作用)が遅れたことは、注意が手そのものに向けられたのではないことを示唆する。手の位置を計算し、その手がある位置に空間的注意を向け、その位置にある指に与えられた刺激により誘発された2次体性感覚皮質活動が増強したとも考えられるが、そうであるならば、手の位置の計算時間が手の位置により相違し、腕を交叉した場合に、この計算時間が長くなる必要がある。本研究の基礎研究(未発表)として実施した実験により、2次体性感覚皮質活動は、手の位置によりその皮質活動強度が変化し、手の位置に対するチューニング曲線が存在し、その曲線は視線方向にシフトすることが示唆された。これらのことより、体性感覚の能動的注意は単に体座標系のみを参照系として生成されるのではなく、手がある位置に注意を向ける空間的注意も強く関与している可能性が示唆された。
|