ラットの空間における経路統合機構の脳機構を解明するために、空間認知を必要とする行動に関与する海馬系の脳内機構の関与を明らかにするため以下の実験を行った。 本年度は、ホーミング行動の成立に関わる基本的条件を明らかにした上で、ラットのホーミングに関わる筋運動感覚刺激(自己中心的情報)の役割を解明することを目的とした。 このため、まず視覚刺激を統制した条件において、ラットがホーミングを実行することを確認した。次に、このラットの海馬を損傷したところ、ホーミングに失敗した。餌を得るまでの往路の軌跡は個体によって多様であることから、往路中の広場内に障壁を設け、行動を統制したけれども、海馬損傷ラットのホーミング行動に改善は見られなかった。また、海馬損傷後にホーミング行動を訓練したところ、チャンスレベルでしか目標であるホームに帰り着けなかった。 次にホーム(出発箱)から餌場まで実験者が操作する車でラットを運び、その地点でラットを広場に放ち、その後の餌持ち帰り行動を行わせた。この運搬車を用いることによって、視覚刺激の統制に加えて、筋運動手掛り刺激を統制し、外部刺激と筋感覚運動刺激の効果を独立して評価することが可能になると予測した。しかし餌を得たラットはホームではなく、運搬車から広場に放たれた地点に戻ってくることが明らかとなった。このことから、実験者の想定したホームが必ず適切なものでなく、実験方法の改善が今後の課題として残された。 本年度は、最終年にあたることから、経路統合の実験的考察に最も優れた行動であると考えられるホーミングを取り上げ、この行動の実行に関わる海馬の機能についてこれまでの研究をまとめ、「比較海馬学」渡辺茂・岡市広成(編著)(ナカニシヤ出版)の第12章にホーミングのタイトルのもとで掲載した。
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