一定の場所に巣を持つ多くの動物種は、巣から遠く離れた場所に移動した後でも、最短距離で巣に戻ることが可能であり、この行動をホーミング(homing)と呼ぶ。本研究では、ホーミング行動の成立に関わる基本的条件を明らかにした上で、ラットのホーミングに関わる筋運動感覚刺激(自己中心的情報)の役割を解明することを目的とした。 最初に視覚刺激を統制した条件において、ラットがホーミングを実行することを確認した。ラットは8つのホーム(出発箱)が円周上に配置された円形広場内の4カップのどれかに置かれた餌を見つけ、その餌を持って最短距離でホームに帰ってきた。次に、このラットの海馬を損傷したところ、ホーミングに失敗した。餌を得るまでの往路の軌跡は個体によって多様であることから、往路中の広場内に障壁を設け、行動を統制したけれども、海馬損傷ラットのホーミング行動に改善は見られなかった。また、海馬損傷後にホーミング行動を訓練したところ、チャンスレベルでしか目標であるホームに帰り着けなかった。 次にホーム(出発箱)から餌場まで実験者が操作する車でラットを運び、その地点でラットを広場に放ち、その後の餌持ち帰り行動を行わせた。この運搬車を用いることによって、筋運動手掛り刺激を統制し、外部刺激と筋感覚運動刺激の効果を独立して評価することが可能になると予測した。しかし餌を得たラットはホームではなく、運搬車から広場に放たれた地点に戻ってくることが明らかとなった。このことから、実験者の想定したホームが必ず適切なものでなく、実験方法の改善が今後の課題として残された。 本結果を先行研究の結果と重ね合わせてみると、海馬がホーミング行動に関与することが確認され、空間認知にくわえ経路統合においても海馬が重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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