研究課題
2名のプロ打楽器奏者に、太鼓の即興演奏によって「喜び、怒り、悲しみ、恐怖、優しさ、厳粛、無感情」という7つの感情を表現するように求める演奏実験と非音楽家にその演奏を提示して感情的意図を判断するよう求める聴取実験を行い、非音楽家を演奏者とする以外はほぼ同一の条件で演奏・聴取実験を行ったYamasaki(2002)の実験結果と比較した。演奏分析の結果、音のレベルについては、「喜び、怒り、悲しさ、優しさ」を意図した演奏について両プロ音楽家および非音楽家の間で類似した傾向がみられた。また、打間時間については「喜び、恐怖、厳粛、無感情」を意図した演奏について両プロ音楽家および非音楽家の間で類似した傾向がみられた。一方、聴取実験の結果、プロ音楽家の演奏における意図感情の正伝達率は42.3%であり、チャンスレベルよりも有意に高く、演奏者の演奏意図は聴取者にうまく伝わったと判断された。この値は、非音楽家の演奏における意図感情の正伝達率である33.2%よりも有意に高かったが、その差はそれほど大きなものでもなかった。こうした結果から、以下のようなことが示唆されたとして、論議を行った。(1)今回取り上げたような比較的単純な感情については、音のレベルや打間時間といった音響的特徴と感情との結びつきに音楽的熟達はそれほど影響しない。(2)非音楽家の方がそうした結びつきにむしろ忠実な演奏を行うのに対し、プロ音楽家はそうした結びつきに忠実である部分と逸脱する部分を併せもったような演奏を行っている。(3)プロ音楽家の演奏にみられるそうした矛盾が演奏の個性や音楽性につながっているのではないか。(4)プロ音楽家の演奏のそうした特徴ゆえに、意図感情の正伝達率についてだけみれば、非音楽家に比べてそれほど大きな優越性は示されなかったのではないか。
すべて 2006 2005
すべて 雑誌論文 (2件)
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 5
ページ: 111-122
CD-ROM for the 2nd international conference of Asia Pacific Society for the cognitive science of music
ページ: 28-36