本年度はこの研究の最終年度に当たる。すでに昨年の実績報告書でも述べたように、本研究が最も重視していた生徒の個人情報を含む、都内公立小学校が保存している記録類の閲覧、収集に対して小学校側が大変慎重な姿勢をとる状況が生まれている。即ち「個人情報保護法」が本研究のような実証的な研究に対して、阻害要因となる状況がうまれている。しかしすでに収集した史料類だけでも厖大であり、以下のような分析をおこない、1910年代以降の公立学校の学校改造の動きを従来に比べて詳しく描くと共に、新教育運動を理解する上でのいくつかの重要な論点を発見し、貢献をおこなった。 研究は次の4点についておこなった。まず最も史料が充実していたお茶の水小学校(もと神田区錦華小学校)について、教育をめぐる環境面に重点をおいた分析をおこなった。新教育の主要な着眼の一つが児童の生活や環境の注目であるが、この学校では林間学校や様々な身体への働きかけが活発に行われた。特に最も総合的な領域として学校建築があると考え、関東大震災後に地域、父母、教師が計画段階から関わった小学校の復興問題を対象に考察をおこなった。第2に、小石川区林町小学校を取り上げる。夜間小学校、女子補習科、遅進児のための特別学級を1910年代から発足させ、公立小学校として例をみない総合的な学校改革をおこなったことを研究史上初めて明らかにした。本体となる林町尋常小学校は、1910年の発足以来従来、公教育への批判に立って予習法・復習法、児童自治法などを編み出して教育改革をおこなっており、「新教育」との比較のために重要な対象といえる。第3に、同校がどのような地域階層に支えられていたのかを、父母を対象に分析した。第4には、小学校日誌も相当量収集したが、そのなかから教育実践の記述の多いものを選び、教育改革の動きを抽出した。以上、論文4点で構成される報告書を、期限内に提出したい。
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