本研究は、アメリカおよび日本におけるシティズンシップ教育の思想史的文脈とその変容を、特に、1990年代以降のそれぞれにおける教育改革論に着目し、そこでの公共性のとらえ方の変容を分析することによって明らかにし、21世紀のシティズンシップ教育を展望しようとしたものである。本研究では特に、アメリカだけでなくヨーロッパにおける動向も視野に入れ、また、ハンナ・アレントらの思想研究もふまえつつ、資本主義諸国におけるシティズンシップ論の相克が、日本におけるシティズンシップ教育論や公共性把握とどのように関連しているかを追究することを目的とした。その結果、欧米と日本におけるシティズンシップ教育の展開が政治教育のとらえ直しという点で、共通の文脈を有するものであることが明らかになった。また、学校統治と学力問題において、公共性という点から新しいパラダイムを提供するものであることも分かってきた。 従来、シティズンシップ教育をめぐる問題は教育行財政論や教育課程研究などの個別領域において各論的に議論されてきたが、これらを統合する視点は必ずしも十分に形成されてきたとはいえない。本研究では、上述のような問題設定をすることにより、この点を克服しうる可能性を開くことができた。また、現在議論されている教育における「新しい公共性」の背景となる論点を深めることも同時に可能となった。以上のような本研究の成果によって、21世紀のシティズンシップ教育の思想を展望するうえで、重要な鍵となる視点を得ることができた。
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