お雇い教師ヘンリー・ダイアーを介した日本・スコットランド教育交渉における「教育連鎖」の諸相のうち、まず第一に、ダイアーが日本から持ち帰った諸品、いわゆる「ダイアー・コレクション」の全貌を分析し、以下の諸点を具体的に論述した。 (1)ダイアー・コレクションは、一括して保管されているのではなく、グラスゴウおよびエディンバラの図書館、博物館、アーカイブズに収蔵されている五つの資料群に分割されて、保管されている。(2)コレクションの主要な内容は、書冊・冊子、美術工芸品、楽器類、写真・絵葉書類から構成されている。(3)大量かつ多彩なこれらの日本コレクションは、ダイアーの長年にわたる日本関心と日英交流を裏づけるし、強烈かつ永続的な日本関心が『大日本』『世界政治のなかに日本』などという本格的な日本研究につながり、結実していったであろうと思われる点で注目される。 第二に、ダイアーが『英国伝記事典』の最新版『オックスフォード英国伝記事典』(2004年)の見出し語(エントリー)に採用され、しかも相当詳しく記述されたことに着目し、日英の種々の辞書・事典にみられるダイアーについての記述・説明の事例を収集し、それぞれ考察した。具体的には、記述・説明の内容を、お雇い教師として来日するまで、お雇い教師として来日中、帰国後という3期に分けて分析し、(1)かれは「努力立身の人」であり、(2)お雇い教師として「帰国後まもない日本の近代的エンジニアの第一世代」の養成をとおして日本工業化に貢献したにとどまらず、(3)帰国後も知日家・親日家として日英間の交流の推進に寄与したことを、実例を示して論述した。従って、これら3局面は、ダイアーの人物像を理解するさいの重要な分析主題となることを指摘した。
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