現在、ブラジル人学校は全国に約90校あり、第二言語としての日本語教育を実施している学校も少なくない。しかし、そこでの日本語教育方法論は確立されておらず、母語のポルトガル語による教科学習内容から切り離された日常会話中心のものが多い。一方、日本語教育を充実させ、バイリンガル教育を実施して、バイリンガルの子どもを育てようとする学校もある。そうしたバイリンガルを育てようとしている学校のなかに、パウロ・フレイレ地域学校もあるが、従来、日本においては、バイリンガル・カリキュラムの中身やその方法については十分に検討されてこなかった。 そこで、研究代表者は、パウロ・フレイレ地域学校をフィールドに、南米系外国人学校で、日本語教育を含む、どのようなバイリンガル教育の方法が可能かを検討し、転移型の日本語教育を核としたバイリンガル・カリキュラムを構想し、実際に、同地域学校で実験授業を行った。「転移型」とは、母語ポルトガル語での認知力を支えに、母語で習得した言葉や概念を、日本語に移し替えるもので(転移させる)、児童・生徒の年齢や学年にあった認知レベルの日本語を習得させつつ、バイリンガルを育てる。 パウロ・フレイレ地域学校における臨床的な研究の中から、公立の小中学校と地域の外国人学校が協力して、バイリンガルの子どもたちを育てる「地域バイリンガル教育」という新しいプログラムを構想することが出来たのも成果である。
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