まず、本年度は、『1920・30年代におけるわが国の文化教育学とナショナリズムとの関係-入澤宗壽のシュタイナー教育思想理解を中心に-』(平成14-16年度科学研究費補助金・研究成果報告書を刊行した。内容は、1920・30年代のわが国における文化教育学とナショナリズムとの関係について、入澤宗壽のシュタイナー教育学理解を中心に解明したものであるが、詳細ついては報告書に譲る。 つぎに、「大川周明の国家改造思想にみるシュタイナー思想とナショナリズムとの関係(1)」『下関市立大学論集』(第49巻第1号)ならびに「同(2)」『下関市立大学論集』(第49巻第2号)を公表した。両論文は、「シュタイナー思想のわが国への影響」と「教育とナショナリズムとの関係」を考究する著者の一連の研究のひとつに位置づく。とりわけ、この研究では、右翼思想家として知られる大川周明の国家改造思想とその中核に据えられたシュタイナー思想との関係を解明することがめざされた。(1)の号では、はじめに、大川の思想変遷を吟味することで、大川周明とシュタイナー思想との関連が明らかにされ、つづいて、大川とシュタイナー思想とをつなぐ鍵として「ソロヴィヨフ思想」と「神智学」に注目することで、その思想連関が明示された。さらに、(2)の号では、大川論にみるナショナリズム思想の特徴が、大川の依拠したソロヴィヨフとシュタイナーの両思想において構造化された。これら両論の考察の帰結として、シュタイナー的精神科学と大川的ナショナリズムとの理論的な親和性と分岐点が抽出された。 最後に、「現代の教育改革と『不安』」西田雅弘編『「不安」のア・ラ・カルト』(西日本新聞社)を公刊した。本書は、下関市立大学附属産業文化研究所主催の市民大学「不安な時代を生きる」をもとに5人の論者が著作用に書き下ろしたものがベースとなっている。この公開講座の著作化は、著者(衛藤)自身が立案したもので、著作『仙〓』を出版した西日本新聞社によって企画出版として実現している。本書では、「不安」という事象を、哲学、教育学、心理学、経済学、文学という諸相から考究するという総合科学的なアプローチの手法をとっている。著者の担当箇所は、第4章「現代の教育改革と不安」である。ここでは、今日の教育改革に浸透する倫理的「自由主義」や経済的「市場主義」の問題性が指摘され、それに変わる視点として「精神」という次元が提示された。
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