本研究は、今日の複雑な状況をメタレベルで認識する枠組みを内包して取り組むことを試み、具体的には、若年移行期の変容が社会階層といかなる関連をもって進行しているか、とりわけ、先導的に取り組まれている若年者社会参加支援諸施策・実践が、"誰"(どのような社会階層)を元気づけ、元気づけそびれているかを、他国との比較の視点ももって明らかにしていくことを目的とした。 研究の過程で明らかにできたのは、第一に、現在日本で展開されつつある移行期社会参加支援の実践・制度には、(1)地域青少年活動事業を担ってきた実践・現場、(2)不登校・引きこもりなどの若者支援を担ってきた実践・現場、(3)キャリア開発など就業支援を担い始めた実践・現場といくつかの系譜が、必ずしも十分な交流・連携なく混在しているが、それら総体を通じて、社会階層上不利性を負った若年層への公共的支援は構造的に欠落しており、一方で深刻化する若年層の縁辺化状況との深刻なギャップが生じる懸念があることであった。第二に、EU諸国においては、一方ではその若者支援の政策基調は総じて、他の社会政策と同様に「個人化」「就業重点化」志向を強めつつあるが、その一方で、例えばドイツでは、不利益青年の実質的支援者としてのsocial pedagogistの存在や、英国では、youth workとりわけdetached youth workの実践の系譜があり、それらは必ずしも政策基調に同調・一体化するものではないことも明らかにできた。中でも、これらの実践で近年重視され始めている、インフォーマル・ネットワークの構築をめざす若者支援のあり方は、社会階層との関連を色濃くもつ移行期の分極化というあらたな事態のなかで、いま注目に値すると考えられ、次の研究へと課題を引き継ぐこととした。
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