研究概要 |
本研究の目的は、これまであまり省みられることのなかった沖縄地方における近代以降の子ども文化の成立と展開過程を明らかにすることにある。そのために本研究では以下の3つの柱をたててすすめてきたので、その成果をそれぞれの柱に沿って報告する。 1、大正後期から昭和初期にかけての子どもの文化状況、とくに宮古島地方に伝承されていた「久松五勇士」という英雄美談と子ども文化との関連、この話が後世に受け継がれた影響について考察する。 この点に関しては、平成17年10月30日に行われた日本児童文学学会第44回研究大会において調査結果と考察を研究発表できた。その時の指摘をもとに論文を執筆中である。今年の学会誌に投稿、来年度掲載を計画している。 2、戦前、戦中、戦後を通して活躍していた伊波南哲の児童文学作品を調査し、とくに戦前、戦中に書かれた作品について考察する。 この点は1の研究課題とも関連する。東京都立多摩図書館で、これまで伊波作品のリストには掲載されていなかった「敵艦見ゆ」という紙芝居を発掘した。当時伊波は子ども向けの複数の雑誌に戦意高揚の詩を発表しており、それについても順次調査を進めているが、すでに明らかになっている作品群と合わせて考察が必要だと考えている。この問題については今年度資料収集のめどがついた段階なので、来年度中に論文にまとめる予定である。 3、占領期(1945〜1972年)に存在した琉米文化会館の役割、そこで配布されていた「守礼の光」という雑誌の子ども向け作品の評価,考察を行う。 これに関しては、八重山市立図書館、那覇市立図書館に保管されている琉米文化会館時代の英語の絵本の書誌が完成し、「守礼の光」に沖縄民話を連載していた地元の作家、せそこちずえ氏に関する論文が完成している。琉米文化会館の絵本については今後解題を執筆して発表の予定であり、せそこちずえの沖縄民話については今年発行される「沖縄文化」(沖縄文化協会、第100号)に掲載されることが決まっている。 また、今年一番の収穫はアメリカメリーランド大学プランゲ文庫における資料との出会いであった。これまでにも「コドモノクニ」や「少年倶楽部」といった雑誌を調査し、沖縄のことがどのように本土の子どもたちに伝えられているか、あるいは沖縄の作家の作品が掲載されているかどうかなどを調査してきた。プランゲ文庫には日本には保存されていない占領期の本や雑誌が保管されており、その中にいくつかの沖縄に関する記事や沖縄の作家の作品を発見した。日本ではまだ公開されていない内容なので、今後丁寧に考察していきたいと考えている。
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