本研究においては、以下の3つの柱について研究をすすめてきたので、その成果をそれぞれの柱に沿って報告したい。なおそれぞれの研究テーマについては、研究期間内に学会発表、特別展示、論文発表などの形で公開してきた。 1.大正後期から昭和初期にかけての子どもの文化状況、とくに宮古島地方に伝承されていた「久松五勇士」という戦時軍国美談と子どもの読物・教育との関連、この話が後世に語り継がれた意味を考えた。筆者は、もしも「久松五勇士」という物語が今後も語り継がれる可能性があるとするなら、子どもたちに地域の個性を発見させ、この話からおのが地域に根ざした歴史を正しく見る目を育てることが重要だと結論づけた。一見成功の物語に見える話の背景に潜む権力性と差別の問題に迫ることのできる作品として、「久松五勇士」を再評価したい。 2.沖縄占領期(1945年〜1972年)に発行されていた米軍のプロパガンダ誌「守礼の光」には瀬底ちずえという人物が沖縄の昔話を再話し掲載していた。当時沖縄には子どもの本の書き手はほとんどなく彼女の仕事は戦後の児童文学を考える上で非常に興味深い資料である。しかし長期間にわたって雑誌に連載を重ね、後に出版という経緯を辿ったが、「親米派」の書き手というとで後世に研究するものもなく正当な評価がなされていないと考える。そこで瀬底ちずえの作品を調査し、占領の時代背景の中で意味づけ論述した。 3.2の研究課題も密接に関係するのだが、占領期には「琉米文化会館」という米軍の設置した社会教育施設が全琉に5館存在した。大きく行事部と図書部に分かれて活動したいたが、筆者は以前から図書部に所蔵されていた子ども本に興味関心をもっていた。日本の絵本や読物は引き続き市立図書館等で貸し出され、いつしか廃棄処分になってしまったため、その詳細は明らかではない。しかし英語の本については那覇、八重山、宮古に残っている。その書誌データを整理して後世の研究に生かすことが重要だと考え、調査に着手した。歴史の証言者たる基礎資料を整理・保存する仕事は、現在の沖縄占領史研究において急務である。
|