公立博物館の成立と維持存続の過程を、市民との関係構築の観点から解明するため、本年度は以下の研究を行った。 1.一連のNPM、日本版PPP的改革にさらされる博物館側が、定量評価だけでは計れない、施設固有の歴史や利用状況をアピールする必要性があることを論じ、伊藤寿朗が市民参加の一モデルとした、宮城県美術館の教育普及活動を事例研究した。多元的な利用状況解明のため質的調査を行い、1981年の開館から1995年までのモノグラフを作成した。普及部の活動は、個人の主体性の確立をめざす活動であり、「近代美術館」の性格に相応したものであった。また、影響関係検討のため、アメリカのウォーカー・アートセンター、ブルックリン美術館等で参与観察や資料収集を行った。 2.指定管理者制度が導入された島根県立美術館、長崎歴史文化博物館、長崎県美術館での参与観察から、教育普及活動の質的転換の必要性を論じた。また、両県での議論を調べる過程で、自治体財政の立て直し策であるはずの指定管理者制度が、新たな箱モノ建設とセットで使われるねじれ現象を発見、地域総合整備事業債の問題点を指摘し、設置者側への教育の必要性を論じた。 3.日本社会教育学会にて、ラウンドテーブル「NPM、PPPから考える指定管理者制度」と「ミュージアムは市民のシンクタンクたりえるのか」を企画し、研究計画へのアイデア源とした。前者では、九州大学大学院法学研究院の田中孝男氏からの指定管理者制度の理論的背景と、のぞまれる制度運用に関する視点等の報告、宮城県美術館の大嶋貴明氏の問題提起を受け、討論した。後者では、NPO法人千葉まちづくりサポートセンターの栗原裕治氏やアーティストの小沢剛氏、千葉県立中央博物館の林浩二氏らからの報告と討論を行った。これらの内容は、Musa20号に掲載した。
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