研究概要 |
本研究は大学評価を市場型と制度型に大別し,それらを比較検討することにより,大学評価の向上に資することを目的としている。この目的に即して,今年度は,これらの大学評価の二つのタイプのうち,市場型大学評価を中心に分析を行った。まず,先行研究を整理し,市場型大学評価が発展した背景として,大学情報を求める学生・親,大学・研究者などの需要が,安価である市場型評価の特性と一致したことを明らかにした。 ついで,個別大学データに基づき,市場型大学評価に関する統計分析を実施した。とくに,いわゆる「大学ランキング」について,日本だけでなく,イギリスのロンドン・タイムズ・高等教育版の世界大学ランキングと中国の上海交通大学の世界大学ランキングなどについて,独自の統計分析やシミレイションを行い,インテンシブに比較対象研究を行った。 その結果,この二つの大学ランキングは,目的,方法,評価基準など多くの点で,まったく異なる大学評価であり,大学の異なる側面を評価している点で,同じ「世界大学ランキング」といっても,相互に比較するのは困難であり,異なるものとみなした方がよいという結論に達した。 このことは,市場型大学評価の二つの大きな問題点を示している。第一に,「世界の大学」のランキングの可能性についてである。限られた評価基準とデータに基づいて,世界の大学の評価やランキングを行うことはきわめて困難であることが明らかにされた。第二に,大学の「総合ランキング」の問題点である。個別の専門分野については,比較やランクづけはある程度可能であるとしても,それらを総合得点でランクづける「総合ランキング」は,一国内の大学でも難しい。その問題点が,国際的な大学ランキングではより明確になったと言える。これらのことは,安易な大学ランキングや市場型大学評価に対する批判であるとともに,より客観的な大学評価や制度型大学評価の必要性を示唆している。 これらの知見の一部について,2005年9月19・20日の東京大学大学経営政策センター主催の国際会議「高等教育の市場化」(於国連大学)や11月7〜9日の第2回日中高等教育学会「日中高等教育新時代」(於広島大学)において,報告を行った。さらに,これらに基づき,日本語だけでなく,英語および中国語による成果の刊行を行うこととし,その一部の作業を実施した。
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