本年度は、主に、多民族国家オーストラリアにおける社会の多様性への学校教育の対応に焦点を当てて、多文化教育およびシティズンシッブ教育の現状を明らかにするための作業を行った。具体的には、オーストラリアにおいて、資料収集およびインタビュー調査を行った。その結果、まず、連邦政府レベルにおける多様性への対応については、政府文書の分析等を通して、トーンダウンしてきている様子が明らかとなった。その一方において、社会の統一という点が強調されてきており、一つのまとまりあるオーストラリア国民、オーストラリア市民の育成のためのシティズンシップ教育が重要視されてきている。連邦政府は、「デモクラシー発見プロジェクト」を主導し、シティズンシップ教育のための教材の開発を行った。そこでは、オーストラリアのナショナルアイデンティティを再構築するために、歴史教育、オーストラリア史の教育が重要視されている。2006年には常設文部大臣会議とカリキュラム・コーポレーションとの共同で新たに、今後のシティズンシップ教育のカリキュラム指針を示した「公民科とシティズンシップのための学習」ステートメントが出された。今後、オーストラリアのシティズンシップ教育は、ローカル、ナショナル、リージョナル、グローバル、それぞれのレベルを視野に入れて、歴史教育、法教育、公民教育、価値教育、アジア学習などの側面から取り組まれようとしており、興味深い。次に、州レベルにおいては、連邦政府の動向を踏まえつつも、州独自のさまざまな取り組みがみられる。今後は、それらが具体的にどのように展開されていくのか、特に、多様性の尊重と社会統合との関係において、どのような態様を示すのかを明らかにすることを、課題としたい。
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