本研究では、初等・中等教育段階に焦点を当て、オーストラリアにおける多文化教育の理論・政策・実践を、日本における多文化共生に向けた教育への取り組みと比較考察し、それぞれの問題点と課題を明らかにした上で、「日本型多文化教育」の理論と実践のあり方を検討することを目的とした。まず、オーストラリアの連邦政府レベルでは、政策文書等を分析した結果、多様性の尊重より、多様性の中の統一、共通性に重きが置かれるようになってきていることが明らかとなった。具体的には、オーストラリア市民・国民として、共通の知識・スキル・価値を身につけるためのシビックス・シティズンシップ教育、価値教育が重要視され実施されてきた。州レベルにおいては、例えば、ヴィクトリア州やニューサウスウェールズ州等では、多文化法が制定されたことで、メインストリームの校教育において多文化主義が明確に位置づけられるようになった。また、実際の教育においては、英語以外の言語教育や文化理解教育とともにシティズンシップ教育や価値教育も行われ始めている。それらを通して、どのように、多様性も尊重しつつ社会統合を進めようとしているのか、そこでの問題点などが明らかになった。日本では、現在、日本語指導が必要な外国籍の子どもへの対応を中心とした政策が展開されているが、そこから母語や母文化、エスニシティを生かした教育、すなわち多文化教育政策の展開には至っていない多文化共生社会に備えるために、外国人の子ども、日本の子ども、すべての子どもを対象にした、多様性を価値づけた教育政策が必要とされる。教育実践においては、共生を柱、視点とした市民性教育として、国際理解教育を再構築していくことが求められる。
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