今年度は、研究代表者の白鳥は、十九世紀末以降の高等教育の歴史的な展開とともに、現代における高等教育の諸相について、とりわけフランスを中心に研究を進めた。具体的な成果としてはまず、高等教育の問題も視野に入れつつ執筆した論文の他に、大衆化の進むフランスの大学において、より良い研究の条件を整えるために創設された「フランス大学学院」(Institut universitaire de France)に関する学会報告(於 日本教育社会学会)が挙げられる。また日仏教育学会では、シンポジウム「大学評価と契約政策」において司会をつとめ、今日的な課題として注目されている評価や中期契約といった問題についての議論の整理ならびに論点の整理を行って、理解を深めることができた。研究分担者の油井も、アメリカの高等教育のあり方を視野に置きながら、パーソンズを中心とする理論的な研究を深めることによって、高等教育および研究体制の比較研究に通ずる研究を進めた。また今年度は、フランス、ドイツ、シンガポールといった諸国での調査研究に加えて、ストックホルム(スウェーデン)で開催された国際社会学機構第37回世界大会、北京の中国社会科学院社会学研究所(中国)で開催された国際シンポジウムに参加して報告を行う機会を得て、そうしたなかから各国の高等教育や研究体制のあり方の一端を知ることができた。次年度以降も、高等教育ならびに研究体制の歴史的な展開と今日的な課題という両側面を念頭に置きつつ、研究をさらに進展させていきたい。特に今日的な側面に関していくつか挙げるならば、例えばフランスでは、従来の評価機関に加えて、その上にさらに上位機関を新たに創設しようとする動きがあり、また日本では予算的な側面から各国立大学法人の中期計画の見直しが官庁側から求められていると伝えられてもおり、こうした動向も大いに注目されるところである。
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