平成18年度は、2006年9月にロンドンとパリにおいて、2007年3月にパリにおいて、計二回の現地調査を行った。以下現地調査及び文献から得られた新たな知見である。 1.イギリス(ロンドン)とフランス(パリ)における正規の学校を数校ずつ訪問して、中国系の子どもの受けている教育の実態を把握することができた。具体的には、イギリスでは中国系の子どもは多くても一校に30人程度で散らばっているが、フランスでは例えば中華街のあるパリ13区やパリ郊外のローニュには中国系の子どもが集中している学校がある。また、イギリスとフランスの正規の学校においては、近年、外国語教育としての中国語教育が盛んで、簡体字とピンインを用いて北京語が教えられていた。イギリスにおいてもフランスにおいても、中国系の子どもの大部分は家庭では広東語や潮州語などの中国語方言を話すので、正規の学校における中国語教育は、母語教育としての役割は果たしていないことがわかった。また、イギリスでもフランスでも正規の学校においては、中国系の子どもの出身地の文化に配慮した教育は行われていなかった。 2.20歳代を中心とする中国系第二世代への教育の経験や親との葛藤などのライフヒストリーを構戒するインタビュー調査によって、文化的アイデンティティ形成過程についての、イギリスとフランスにおける共通点と相違点が明らかになった。共通点としては、第二世代の若者は、自分を取り巻く様々な人間関係の中で自らの文化的アイデンティティを選び取っていて、それは変化することもあった。相違点としては、親の出身地が多様なフランスにおいては、「アジア人である」というアイデンティティが形成されていることがわかった。
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