本研究では、日本の伝統音楽「声」のジャンルの特性を明らかにし、教育現場で授業に有効に活用できる教材を作成し指導方法を研究し、教員養成・音楽の学生に身につけさせるための、学習プログラムを開発することを目指している。ここでは、「声」のジャンルの学習素材として「謡曲」を取り上げた。それは、近世邦楽に多大な影響を与え、600年にわたり受け継がれ演奏され続けてきた、能楽の声楽部分だからである。それらは日本の伝統音楽の「声」の音楽の特徴である「生み字」「微妙な音程変化やグリッサンドを伴う音程変化」「音圧による表情の変化」「あたりを伴う節まわし」などの特徴が初心者でもわかりやすく、学習し易い謡い方のパターンが存在する。 今年度の研究では、これまでの研究で開発した教材およびその提示方法などを生かし改善を加えた実践を計画し「謡曲」の学習実践プログラムの効果について検証を行った。 その結果短時間の学習でも体験的学習を取り入れ、楽譜を分かり易く「図形的楽譜^1)など」にして示すことで、以下の成果が得られることが明らかになった。 (1)謡曲の音楽の諸要素の多様な変化の知覚・感受・理解ができる。 (2)日本の音楽の特徴の理解ができる。 (3)謡曲の表現技術2)の多様な変化や微妙なニュアンスの違いも知覚・感受・理解できる。 (4)図形的楽譜を利用することで、謡曲の基礎技術^3)の習得が短時間でできる。 注:(1)図形的楽譜とは、謡い方の抑揚、音の高底や長さを線の動きで表した楽譜のことを言う。 (2)表現技術とは、基礎技術である、節や間の上に感情を盛って、曲趣や文章の情感を表現する技術。この表現力が加わって初めて謡いが芸術として成立する。 (3)基礎技術とは、節の音の高低や音の長短を間違いなく謡う技術。
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