授業の記録映像とその文字化記録から、授業中のコミュニケーションを強く統制して発問-応答-評価型の授業を維持する教師の言動が、児童間の衝突を回避したり、誤答や不規則発言を授業に貢献する正規の発言として処理したりする、生徒指導(生活指導)上の効果を発揮していることを見出した。特に、発話の位置を変えることや児童の特性に応じて発話者を決定することによる成功体験の提供、特定の児童の発話を即座に制止することによる別の児童への受容的対応という、これまであまり注目されてこなかったコミュニケーションの統制を通じて学級内の人間関係を改善する可能性を見出した。これにより、教師による授業中のコミュニケーション統制が、学習指導のためだけでなく、学級内の人間関係の改善のためにさえ、有効に活用しうることが明らかとなった。さらに、生徒指導(生活指導)について用いられてきた研究手続きによって授業研究から得られた本研究の知見を考察し、このような知見が生徒指導(生活指導)の研究としても妥当なものであることを示した。 また、児童生徒による意図的・自覚的な反抗的言動に対する統制行動の一種について、それが有効に機能する原理の理論的考察を試みた。考察の対象としたのは、「児童生徒の反抗に対して、わずかに論点をずらして応答する」という手法である。考察を通じて、このような手法は相手の反抗の核心を受容することで反抗自体を無力化する効果を発揮しているとの仮説を得た。
|