研究概要 |
本年度は研究の最終年度にあたり,これまで3年間の研究成果に基づいて一定の結論を得ることを目標に据えた。すなわち「エクイティ」が学習者である児童生徒にどのように習得されるのかを,具体的な授業観察や学校のフィールドワークの記録を分析することによって明らかにすることである。 フィールドワークのあり方については理論問題として整理し,フィールドの選定,フィールドへの接近,当事者たちとの距離,観察者としての立ち位置,観察の方法論,仮説検証型研究と仮説生成型研究の異同とそれぞれの意義や課題,といった観点から省察的にまとめた。その内容は日本移民学会において「ハワイの移民・エスニック研究(多文化教育)」という題目で発表した。 本研究は多文化教育を思考モデルとしてこれからの社会科のあり方を展望するという目的を有しているが,本年度の研究の一部を使用して高等学校公民科の今日的課題について提言を行った。その内容は研究代表者を編集代表とする『中高社会科へのアプローチ』(東京学芸大学出版会)において,分担執筆により公表した。 昨年度までに,本研究の中心テーマである「エクイティ」に加えて「コンプリヘンシブ」という新たな概念が多文化社会における文化の相互理解のために必要になってきていることが明らかになった。本年度の研究は,これに関するこれまでの調査を踏まえて,「エクイティ」と「コンプリヘンシブ」の理論的峻別を行うとともに,ハワイ州教育局の教育施策である「コンプリヘンシブ児童生徒支援システム(Comprehensive Student Support System)」の実態を具体的な調査をもとに明らかにすることに努めた。
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