研究概要 |
本研究は12音律の各半音の中間音程=「微分音」が日本人の音楽的感性に存在することを確かめ,また,同様にリズム感性の特徴を明らかにすることにある。これらの特徴は邦楽や商業民謡より盆踊りなどの地域の音楽で顕著に確かめられると思われ,調査を行うことにした。全国の民俗音楽のCDを取り寄せ検討する一方,本年は奈良県吉野郡十津川村に調査に出かけ,「十津川の大踊り」を取材した。かつて昭和63年に十津川村武蔵の大踊りを取材したことがあったが,今回は小原,武蔵,西川の3地区とも取材した。結果,祭りの雰囲気は昭和63年当時のままだが,音楽的には危惧されるものを感じた。昭和63年当時の武蔵の大踊りは明らかに歌唱旋法に「微分音」を用いて歌っていたと記憶しており,そのことから今回の調査対象に選んだのだが,はっきりとした「微分音」は残念ながら認められなかった。商業民謡は西洋音楽に近い12音律を用いるが,歌い手は民謡をたしなんでいる人も多く,その影響が出た可能性もある。毎年現地で調査している大学の研究者から音源を借用してさらに古い時代に遡って音の分析する予定である。 今年度は沖縄音楽の予備調査も行ったが,こちらは「微分音」が認められた。特に師事した経験のある人による伝統的沖縄民謡の演奏では「微分音」の使用がしばしば見られた。沖縄県立芸術大学音楽学部助教授の比嘉康春氏の話によると,沖縄の伝統音楽では明らかに「微分音」が使用されていることや,学生ら初心者は12音律の音感しか持っていないのがほとんどだが,訓練すると「微分音」の感覚が身につけられることから本来的にこういった音程感覚を持っているのではないかと示唆された。今後は現地で入手した沖縄音楽音源の分析や現地に赴いて調査を継続する予定である。 さらに今後は前述で得られた「微分音」をデータ化し,それにより合成された音を用いて心理的実験を行う予定である。
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