本年度は、音楽表現のデジタル化と波形分析を行うとともに、声楽指導において、波形分析結果を用いた表現指導の実践的研究を行った。 1.声楽指導において、学習者へ録音した音声とその波形分析結果を即時にフィードバックする。 (1)声楽学習者は、主に骨伝導音を聴きながら歌唱するため、指導者など第三者と同様な音声認識が困難である。そこで、学習者の音声の変化を録音し再生するとともに波形表示も同時に示す。この方法により学習者は客観的に自らの音声を捉えることができ、学習意欲と効率が高まる。 (2)波形表示は、「音のゆらぎ」と「高次倍音の比率」の変化に着目し提示することが有効である。「音のゆらぎ」については、波形全体の「形」の変化に着目し、音楽表現の息の流れ(音楽の流れ)を感覚的に捉える上で有効と考えられる。また「高次倍音の比率は」発声上の響き(音色・音質)の観点(高次倍音量の充実)から、その巧拙を認識できる利点がある。 (3)録音再生による音声情報と波形分析結果による視覚情報を連動して提示することにより、学習者の骨伝導音認識による声楽学習の障壁を和らげることができる。 2.学習者の変容を波形図として記録する。 (1)学習者の演奏を音声解析し視覚情報として蓄積することにより、長期にわたる学習過程の変化を同時に(一画面で)比較検討することが可能となる。 (2)学習過程の音響的変化を音楽表現の熟達方向として置き換えることにより、各サンプルの音楽表現の巧拙を客観的に認識できる。 (3)熟達の方向を考察することにより、指導者と学習者の演奏表現の目標が明確となり共有化できる。従って学習目標に対する評価観点の設定を具体化しやすくなる。
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