本年度は、研究実施計画にあげていた(1)理論的考察・仮説導出、(2)先行実践の社会文化的アプローチによる分析、(3)(4)入門期の国語科授業観察、生活観察によるコミュニケーションの形成過程の分析、(5)保護者へのアンケートによる家庭でのコミュニケーションの現状把握、(6)予備的実験授業の実施について順調に進めることができた。 まず、(1)において、理論的考察及び複数の教室への参与観察を通して、発達心理学で言われている「一次的ことば」から「二次的ことば」の橋渡しの部分に入門期の言語発達及びコミュニケーション形成の大きな節目があることが明らかとなった。そして、この「一次的ことば」から「二次的ことば」への移行には教師のコミュニケーション観および学び観のあり方が大きく関わっていることも明らかとなった。さらに、(2)の先行実践・研究の分析を通して、「一次的ことば」から「二次的ことば」への移行に共通した学習指導の原理を見出すことができた。それは、子どもたちが自由に語り合える「感性的コミュニケーション」の形成に教師が心を砕いていること。つまり、「一次的ことば」があふれるような教室づくりの必要性であり、「一次的ことば」から「二次的ことば」への移行をスムーズにするための、「語ること」を重視した「書くこと」学習の導入のあり方であった。こうした先行実践・研究が重視している入門期の学習指導の原理は、(3)と(4)の参与観察での入門期学習指導の熟達者と子どもとの相互作用からも明らかとなった。 以上で明らかになったことに関しては、第109回全国大学国語教育学会での口頭発表及び『熊本大学教育学部紀要』第54号、『熊本大学教育実践研究』第23号に論述した。さらに、以上の取り組みから明らかになった仮説をもとに、(6)の予備的実験授業を行った。この成果と課題については、第110回全国大学国語教育学会において附属教官との共同研究のもとに発表を行う予定である。
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