言葉使用に際して抽象度の上げ下げが要求される読み書き能力について、三つの調査を行った。(1)反論する際に事例をどのように挙げるか、(2)与えられた命題に対して事例をどのように挙げるか、(3)与えられた複数の事例をどのように括るか、の三つである。対象は、渋谷教育学園中学高等学校の生徒(各調査で、263人、653人、555人)である。最初の調査のみ早稲田大学第一文学部の学生(49人)も対象にした。中1と中3と高2の学年で比較をした。平成17年4月5月に反論文を書かせ、挙げた事例の頻度、その事例の妥当性という観点から学年比較を行った。平成18年1月には、調査紙に記入させ、適切な事例を挙げる力の学年比較を行った。平成18年5月には、調査紙で事例を括る力の学年比較を行った。 (1)の、反論する際に事例をどのように挙げるかを調べた調査では、各生徒が論点総数に対して挙げている事例の頻度は、中学生から大学生まで変わらなかった。しかしその事例が主張と合っているかをみると、中1では半数の生徒が不適切であった。上級生ほど時事問題を取り上げることも分かった。 (2)の、命題に対して事例をどのように挙げるかを調べた調査では、適切な事例を挙げる生徒の割合は学年で大きくは変わらなかった。しかし誤答に着目すると、中1では思いつかないための空白が多かった。(3)の、事例をどのように括るかを調べた調査では、正解者の率は上級生ほど高かった。しかし上級生では、括ることに加えて自分の意見を書き足している解答が目立った。 認知心理学では抽象度の上げ下げ能力は9歳半で確立しその後は個人差による違いとなると述べられているが、詳しくみると学年による差は中学、高校、大学でも明らかになった。「論じ方」は概念操作の問題だけではなく、経験の蓄積と転用の力、状況把握による抽象度の調節能力などが大きく関係することが明らかとなった。
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