研究概要 |
本研究は日本語を母語とする英語学習者が教室場面で行う発音練習の形態について,実験音声学的見地からその効果と差異を検証することを試みたものである.実験においては1、非言語(無意味)合成音声,2、日本語の音素,3、英語にのみ存在する音素,4、英文,を刺激音として用いた. 昨年度は音韻の生成と知覚に重点を置き,母語話者による自然性判断を用いて2つの実験を行った.本年度は基礎研究として学習者の音声が持つ高さ,強さ,長さ(潜時を含む)等のパラメータが発音練習の形式によってどのように影響を受けるかの概要を予備調査し,さらに合成音を利用した二つの実験を行った. その一つは発音練習の形式の差異が短期記憶の成績にどのような影響を与えるかを調べる実験であった.厳密にコントロールされた非言語音を発音練習する課題を被験者に課し,信号検出理論を応用した知覚閾の検出を利用して発音練習の形式を定量的に調査することができた. もう一つは心理学における記憶再生実験の枠組みを応用し,無意味語等の記憶成績を直接測定した.すなわち,コントロールされた刺激語を組み合わせ,被験者の全く予想できない人工文法のルールをいかに正確に把握するかを定量的に測定した.これにより,例えば単語の暗記にはどのような音声を利用した練習形式が効果的であるのかが示唆された. 研究代表者の所属機関が移動したことにより若干実験の実施に遅れが生じ,予定していた遅延聴覚フィードバックの応用にまで実験が及ばなかった.今後は学習者自身の発音を数十ミリ秒単位で遅らせ,録音した音声の自然性や試験語の記憶成績を調べることにより,引き続き研究を進めていきたい.
|