研究概要 |
養護学校等においては児童生徒の障害の重度・重複化に対応した指導の充実を目指した実践研究が継続されているが、その一方で新たに、「超重症児」と呼ばれる子どもたちに対しどのように向き合い、どのようにかかわるべきかという課題が大きくなりつつあり、担当教師らはその対応において非常に苦慮している。同様に、重症心身障害児療育の場においても、その療育的対応をいかに行うかが喫緊の課題となっている。そこで本研究においては第1に、表面的には動き(自発的な動きのみならず働きかけによって誘発されるような動き)が全く見られない子どもに何らかの動きを引き出す方略、および,微弱ながら動きがわずかに見られる子どもにおいてはその動きをさらに明確にする方略を明らかにすることを目的としている。しかしその一方で、子どもに発現したわずかな動きがその個人にとっていったいどのような意味があり、さらにはそれがどのような発展の可能性を秘めた動きであるのかがよくわからないままに働きかけのみは継続することがある。そこで第2に、それらの動きがその個体の生命活動にとってどのような意味があるのかを場面状況と行動文脈から明らかにし、さらにはその動きを育てることが教育的にどのような意味があるのかを検討することを目的としている。 本年度は、超重症児3例を対象として検討した。3例はいずれも重い知的障害と肢体不自由がある(粗大な動きは全く観察されない)ことに加えて、盲聾状態あるいは視覚聴覚二重障害を合わせ持っているために、視聴覚刺激よりも振動刺激を主に活用した。具体的には、対象児の身体部位の動きを感知して作動するスイッチを用いて(スイッチのセンサーは対象児に極小の動きが見られるようになった、あるいは、すでに見られていた指あるいは顎の部分に設置)、スイッチが入れば振動スピーカーを介して音楽に伴う振動が別の身体部位に与えられるようにした。週1回あるいは月1回を原則とした半年以上の働きかけを踏まえビデオ分析と長時間多因子行動観察分析装置による分析を行った結果、事例1においては、スイッチセンサーを設置した指(左手第1指)の動きに4つの型があり、場面によりそれぞれの型の動きの頻度に違いが見られた。また、3事例に共通して、観察対象でありまたスイッチセンサーの装着部位である指(事例1)や顎(事例2と3)に、何も働きかけのない時に比べて振動によるフィードバックが開始されると、動きの頻度に増大がみられること等が観察された。 超重症児に見られる動きは、一見すれば不随意的な動きと捉えられかねないものが多いが、ここでの観察結果は、それらの動きにも何かしらの心理活動の反映と考えられるものがありそうである。これらの動きは、少なくとも障害児教育の分野においてはこれまでほとんど着目されてこなかったものであり、今後さらに検討していく予定である。
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