これまでの研究成果をもとに昨年5月に出願した特許に関する広島産業振興機構コーディネータの助言もあり、既存の刺激提示用ソフトに表情動画等を組み込んで、表情学習プログラムの改良版を試作するという今年度当初の計画から、企業への技術移転を図り、本研究で用いるプログラムのベースとなる、より汎用性、発展性の高い表情学習プログラムを作製していく方向に研究計画を変更した。現在は、この技術移転の交渉中である。 一方、今年度は、特許出願のために、これまで差し控えていた研究成果に関する論文の執筆を2件行った。その1つは、自閉性障害児・者を対象に表情理解学習を行い、表情に表われた感情の強さを動画と揃えた静止画よりも、動画の方が表情の判断が容易であることや、表情理解の学習によって他人が示す感情に対する理解が増す可能性を示唆した研究である。年度内の雑誌掲載はならなかったが、採択は決定しており、現在印刷中である。 もう1つは、家庭との連携を積極的に行い、表情理解の学習の日常場面への効果を明確化することを試みた事例研究である。学習を行った結果、母親と担任による日常場面の評定では、感情や表情の理解・表出の両側面で評定値の上昇が多く見られた。また、母親は、学習での正答率が上がった頃から、対象児は周囲の人の表情や感情を意識し始めたようだと述べ、対象児の言動の変化を報告していた。これらの結果から、表情理解の学習の日常場面への効果が明らかにされた。 本年度は、上記技術移転のための準備や学位論文の作成に時間をとられ、音声、身振りなど、表情以外の学習内容に関する論文等の資料は一部収集した状況である。学位論文作成も終了したので、来年度以降は、本研究のベースとなる表情学習プログラムの作製並びに表情以外の学習課題に関する準備などを鋭意進めていく予定である。
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