今年度の成果として、アレクサンドロフ空間上で「リッチ曲率が非負」に相当する条件の下で、ラプラシアンの比較定理および分割定理を証明した。リーマン多様体に対しては、リッチ曲率がある定数以上になることは、ビショップ・グロモフの不等式の無限小バージョンと同値である。アレクサンドロフ空間上ではリッチ曲率テンソルは定義されないので、リッチ曲率条件の替わりにこのビショップ・グロモフの不等式を仮定した。アレクサンドロフ空間上の一点を固定して、そこからの距離関数rを考える。rの超関数の意味でのラプラシアンが対応する定曲率空間上の距離関数のラプラシアン以上となることを証明した。これはリーマン多様体に対してはラプラシアンの比較定理として良く知られている。ここで、リーマン多様体の場合と決定的に異なるのは、カットローカスの状況である。リーマン多様体ではカットローカスは閉集合であるのに対して、アレクサンドロフ空間では一般に閉集合にならず稠密になるような例もある。このことから、ラプラシアンの比較定理の証明ではリーマン多様体と同じ方法は通用せず、新しい方法を開発した。 さらに、ラプラシアンの比較定理の応用として、以下の分割定理を証明した。アレクサンドロフ空間がビショップ・グロモフの不等式の無限小バージョンをみたし、直線を含むとき、その空間はあるある距離空間と実数直線の直積に等長同型となる。これはリーマン多様体の場合には、リッチ曲率が非負という条件の下でチーガーとグロモールが証明した。我々の定理の証明方法は彼らの方法に基づいている。証明において最大値原理が必要であったが、これは分担者の桑江氏がより一般のディリクレ形式の設定の下で証明した。
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