研究概要 |
リーマン多様体上の1点pからの距離関数は最も基本的な幾何学的関数であり,多様体の構造とも関連する.しかし微分可能でない点を許容し,そのような点はpの切断跡(cut locus)に含まれる.他方,距離関数に対しても危点の概念が定義されるが,危点では距離関数は微分可能ではない.危点を含まない場合には,距離関数に対しても通常のモース理論(イソトピー補題)が得られており,多くの幾何学的応用を持つ.他方,危点を許容する場合,まずその指数を定義する必要がある.代表者はリーマン計量が自然な(共役点を持たない)条件を満たすとき分担者の伊藤仁一と共にこれを実行し,幾何学的な立場から距離関数のモース理論を展開した(現在投稿中).その際,切断跡が良い構造(stratification)を持っていることを示すのが重要であり,危点qの指数はpとqを結ぶ最短測地線の個数とpを含むstratumへの距離関数の制限(これは微分可能な関数で,qはその危点である)のqでの通常の指数を用いて書ける.しかしこの条件がどの程度一般的かまだ明確でない.清原一吉は可積分系の立場から切断跡の構造を研究した.また定期的に開いたセミナーで,清原と勝田篤は酒井の研究に助言を行った.計量不変量の問に成り立つ不等式(等縮不等式・等経不等式),曲率非負のコンパクト・リーマン多様体の第1固有値評価とその摂動版についてはあまり進展がなかったが,清原はアレキサンドロフ空間の幾何学的不等式に関する結果を得た.森義之は量子コンピュータを研究し,コンピュータ活用の点で酒井に助言を行った.
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