ランダムウォークやブラウン運動は理論物理/化学の領域で高分子の数学模型として用いられることがある。特に多数の高分子が相互作用によって引き付けあう様子、或は溶媒中の不純物が高分子の形状に与える影響は興味深い。不思議なことにこうした現象は統計物理の他の問題(濡れ転移、結晶の成長、浸透理論での最速通過、…)と類似していて、背後には共通の数学的構造が潜んでいると期待される。筆者達の目標はこうした数学的構造をランダムウォークやブラウン運動に基づいた模型を用いで描き出すことである。平成19年度はランダム媒質内の分枝ランダムウォークについて研究した。主な成果は以下の通りである。 ・ランダムウォークの次元が3以上、かつ媒質が「あまりランダムでない」とき、粒子の密度は中心極限定理に従う(diffusive behavior)。また、2粒子が同じ格子点を占める確率(replica overlap)は時刻tに対しt^-<d/2>の早さで減衰する(delocalization). ・一方、ランダムウォークの次元が2以下、あるいは、媒質が「十分にランダムな」とき、時刻tがどんなに大きくても、極端に密度の高い箇所が現れ、replica overlapは減衰しない(localization).
|