本研究においては、リーゼガング現象と呼ばれる反応拡散沈殿現象を扱った。空間1次元において、大西は、その指数則が成立することを数学的に厳密にモデル方程式である、Keller-Rubinowモデルから、証明することに成功した。結果は、数理解析研究所の講究録に報告している。この研究はこの現象のメカニズムの本質を数理的に厳密に明らかにしたという画期的な意味をもつ。その後、空間2次元における、この現象の様々なパターン形成に興味を持ち、新しいモデル方程式を構築した。そのシミュレーション結果は非常に興味深いものであった。実際の化学実験を行うと、リングパターンにはある種の欠損を生じるのであるが、それは、現実の化学実験においては、完全に一様な環境を用意することはできないためであると簡単にすまされてきた。しかしながら、我々のモデルのシミュレーション結果では、そのような欠損は、この系においては、系の時間発展のメカニズムに内在された法則から、自発的に生成されうるものであることを示唆していた。実際、初期値のわずかな非対称性が時間とともに拡大、拡張され、現実の化学実験においてみられるような定性的な性質を持った欠損が再現された。我々のモデルでは、コロイドの物理的性質を九州大学の甲斐教授の理論に基づき、ちゃんと考察しており、もとのKeller-Rubinowのモデルでは、再現されていなかったリングパターンのみならず、スパイラルパターンやこのような欠損パターンをも再現できた。その結果、2次元においては、リングパターンよりもコロイドクラスタが空間に市松状に並んだパターンが自然であると予想し、実際にシミュレーションで実現して見せた。このような結果は、いままで知られていたどの結果よりも深いと思われる。内容については、数理解析研究所の講究録に報告済みである。
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