研究概要 |
2007年度はシュレーディンガー写像の初期値問題について比較的興味深い成果が得られた。 完備リーマン多様体から概エルミート多様体への時間径数付き写像で,ある種の2階分散型偏微分方程式にしたがうものはシュレーディンガー写像とよばれる.シュレーディンガー写像の方程式は,像空間が複素平面の場合は量子力学に現れるシュレーディンガー発展方程式であり,定義域がユークリッド空間や平坦トーラスで像空間が2次元球面の場合は渦糸や強磁性体を記述する古典力学のモデル方程式として知られている.最近の10年間で,この種の古典力学モデルを幾何学的に一般化して,幾何学的設定と偏微分方程式の構造や初期値問題の可解性との関係が研究されるようになった.すべての先行研究で,像空間はケーラー多様体であることが仮定されているが,このときには方程式が対称双曲系のように振舞うので,取り扱いは容易であった. 本研究では,像空間のケーラー性と偏微分方程式系の構造の関係について,幾何学的な大域的視点と線型偏微分方程式論による局所的視点の両方で理解を得ることができた.特に,ある種の線型偏微分作用素の理論における擬微分作用素を用いた2つの基本操作が不要であるための必要十分条件が,シュレーディンガー写像の方程式におけるケーラー性に相当する.このことに着目し,像空間の接束に対する誘導束の断面に作用する擬微分作用素を導入して2つの基本操作を行い,定義域が摂動されたユークリッド空間で像空間がコンパクトなエルミート多様体の場合に,シュレーディンガー写像の方程式の初期値問題の解法を与えた.これは現在執筆中である.
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